第65回定期演奏会 プログラム 曲目紹介
今回取り上げる3人の作曲家の生年と作曲年に注目してみました。
ドビュッシー(1862-1918)「小組曲」1888作曲 / 編曲1907ころ
チャイコフスキー(1840-1893)「くるみ割り人形」1892初演
ドヴォルザーク(1841-1904)「新世界より」1893初演
同時代人ともいってよい3人ですが、今回取り上げる3曲の作曲もしくは初演が1888年から1893年の足掛け6年の間に行われており、新鋭作曲家のドビュッシー
の作品が、2人の巨匠の円熟晩年期の作品よりも先に作曲されている事実が判ります。いずれにせよ、同時代に成立した音楽ということになります。
小組曲 ドビュッシー/ビュッセル編曲
他の2人より20歳ほど若い世代のドビュッシーは、伝統的なヨーロッパ音楽からの離脱を試み印象派音楽とも呼ばれる近代クラシック音楽の流れを切り拓いた重要人物の一人と言われます。しかしながら、今回取り上げた「小組曲」は1888年(26歳)にピアノ連弾用として作曲したもので、いわゆる習作期から独自の技法を確立するまでの形成期に書かれています。ドビュッシーが敬愛する印象派詩人のヴェルレーヌに啓発されて作曲され、最初の2曲はヴェルレーヌの詩から題
名を借用しています。
第1曲<小舟にて>アンダンティーノ(ト長調)6/8拍子 ハープと弦楽器によるアルペジオの伴奏による水の動きを背景に、フルートが美しい旋律を奏でる舟歌です。
第2曲<行列>モデラート(ホ長調)4/4拍子 貴婦人のロングドレスの裾をかかげて行進するおつき人や、ペットのいたずらな猿の様子を描写しています。軽快で楽しい雰囲気をもった曲。管楽器とトライアングルがおどけた楽しい雰囲気を作り出しています。
第3曲<メヌエット>モデラート(ト長調)3/4拍子 ルイ王朝風の典雅な3拍子のメヌエットで、イングリッシュ・ホルンの古風な音色とハープの響きが優雅な雰囲気を作っています。
第4曲<バレエ>アレグロ・ジュスト(ニ長調)2/4拍子 生き生きとしたバレエ音楽で、2拍子の速い舞曲の中間部に3拍子のト長調のワルツが奏でられます。1907年ごろ管弦楽編曲したビュッセルは、ドビュッシーなどの強力な支持者で、ドビュッシーの管弦楽法に則して編曲し、作曲者自身の推薦により彼のオペラ「ペレアスとメリザンド」の合唱指揮を務めるなど信頼も厚かったようです。
組曲「くるみ割り人形」作品71a より(6曲抜粋) チャイコフスキー
チャイコフスキーはヨーロッパの東端のロシアから民族的メロディ・リズムを活かしつつ、より洗練された先進的ヨーロッパを志向した音楽を発展させました。
「くるみ割り人形」はバレエ公演のために作曲された音楽で、クリスマスの夜に起きた主人公クララとくるみ割り人形を中心とした物語。組曲版は作曲者自身がオーケストラ演奏会用に抜粋したものです。今回は、全8曲のうち6曲を抜粋してお送りします。
「小序曲」は低音楽器を除いた小規模な管弦楽で、かわいらしく軽快に奏でられます。続いて特徴的な踊りのうち、4曲を演奏いたします。
「行進曲」はバレエでは第1幕で市長のクリスマス・パーティーで演奏されます。楽器の使用法や、モチーフの類似点など「悲愴」交響曲と共通する部分が多くみられると思います。
ちなみに「悲愴」交響曲は翌年1893年の作品です。続く3曲はバレエ第2幕でのお菓子の精たちの踊りです。
ロシアの踊り「トレパーク」とは何でしょう?「トレパーク」とは諸説ありますが、16~17世紀にフランスの宮廷で珍重されたねじり飴、もしくはパン型の人形だそうです。ネットで写真を見ると、ふなっしーみたいな? 茶色のパンもありました。バレエでの踊り自体は、コサック・ダンスに似たウクライナの民族舞踊「トレパック」だそうです。
エキゾチックな「アラビアの踊り」の原曲メロディーは、実はジョージア(グルジア)民謡の子守歌であるとか。「アラビアの踊り」はコーヒーの精の踊り(どうりでジョージア?)優美な「あし笛の踊り」では3本のフルートが活躍します。原題にあるMirlitonとは、フランス語ではアーモンドクリーム入りの焼菓子であるとか。とともに「あし笛」の意味もあります。
最後はチャイコフスキーも憧れたロココ調の絢爛たる「花のワルツ」で華やかに組曲を盛り上げます。
交響曲 第9番 ホ短調 作品95『新世界より』 ドヴォルザーク
ドヴォルザークはドイツのクラシック音楽の伝統から多くを学び、民族主義的アイデンティティーをより鮮烈に押出し、個性的な作品を世に送り出しました。交響 曲第9番「新世界より」は彼の最高傑作のひとつでしょう。ドヴォルザークはアメリカのナショナル音楽院の院長就任要請に応じ1891年に渡米しました。そこで、黒 人霊歌やアメリカ原住民の音楽に出会ったといわれています。1893年に初演された「新世界より」もその影響を受けて作曲されているといわれています。
第1楽章:アダージョ~アレグロ・モルト アダージョの序奏部では、チェロやヴィオラの静かなメロディが終わったころ、ホルンが突然「ポ・ポーン」となります。これは、 ドヴォルザークがニューヨークに到着した時の、汽船の汽笛の音なのだそうです。木管楽器のシンコペーションリズムの繰り返しの合間に主部アレグロの主題モチーフ の音型が低弦部に予告されます。続く主部ではホルンによる勇壮な第1主題はシンコペーションリズムを用いていますが、穏やかなフルートソロによる第2主題(第3 主題とも)も最初の2小節間はリズムパターンが全く同じです。
第2楽章:ラルゴ 金管楽器のコラールに導入されイングリッシュホルンが主題を歌います。この哀愁を 帯びた旋律は学校からの帰宅時に流れたチャイムなどでも耳なじみでしょう。日本民謡などと共通の、いわゆる(ファ、シのない)ヨナ抜き音階で奏でられる旋律は、メロ ディー作曲家としてのドヴォルザークの面目躍如たるものです。アメリカに滞在中だった作曲者の故郷ボヘミアへの郷愁が想像されます。中間部では、第1楽章の2つ の主題が全楽器で再現される中、トランペットがこの楽章の主題をフォルティシモで演奏します。やがて静まると、イングリッシュホルンが懐かしむように再び最初の主題 を演奏し、弦楽器アンサンブルに受け継がれ、最初の金管楽器コラールが聞こえ静かに曲を閉じます。
第3楽章:モルト・ヴィヴァーチェ リズミックで快活なスケルツォ 楽章。2つのトリオの素朴なメロディが魅力的です。木管楽器で奏される最初のトリオの旋律はやはり(ほぼ)ヨナ抜き音階で山田耕筰の「赤とんぼ」(1927年)も似た 旋律で、親しみを覚えます。コーダ部で、第1楽章の第1主題と第2主題が管楽器の強奏により回帰され、やがて静まり、全楽器のフォルティシモ1拍で曲を締めくくり ます。
第4楽章:アレグロ・コン・フオーコ 短い序奏のあと、金管楽器が力強く第1主題を提示します。余談ですが、昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」中、(伊豆から 挙兵した頼朝が、勢力を拡大してゆく場面だったか)第1主題以降の主要部分をかなり長い時間そのまま劇伴音楽に使っていたのには驚きました。弦楽器による 序奏は、ジョーズや、さかなクンのダジャレではなく、蒸気機関車の発進する様子を描いているとも言われます。鉄道好きだったドヴォルザークは弟子のスークに自分 の代わりに駅に来る新しい機関車の車体番号を確認させに行かせたところ、間違えて帰ってきたので激怒したとか。第2主題はクラリネットが提示する柔和な旋律。 第2主題が提示される直前にシンバルが1回なるのですが、これは列車が連結される様子を描いたとも言われます。前3楽章の主題が少しずつ回帰して、有機的 に結びつき、壮大なフィナーレが築かれていきます。最後に管楽器が、夕日が沈みゆくのを眺めるように長く引き伸ばされた音で全曲を締めくくります。随所に描写的 な場面を配しつつも、美しく親しみやすいメロディを交響曲の様式美の中に結晶させた、いつまでも親しまれる傑作といえるのでしょう。
