第66回定期演奏会 プログラム 曲目紹介
交響曲 第6番 ハ長調 D589 シューベルト
交響曲第6番ハ長調 D 589は、フランツ・シューベルト(1797-1828)が1817年に作曲した交響曲。 作曲者自身は1828年12月のウィーン楽友協会主催の音楽祭に第8番「大ハ長調」D 944の演奏を希望したが、演奏困難であるということで、替わりに、この「小ハ長 調」が演奏された。しかしながら、本人は予定された演奏会の1か月前に急逝し演奏を聴くことはできなかった。(ともにハ長調の交響曲であることから、通常第8番を「大 ハ長調」と称するのに対し、第6番を「小ハ長調」と呼ぶことがある。)
交響曲の父、ハイドンの雰囲気を受け継ぎながらも、同時代の偉大な交響曲作家ベートーベンの革新的表現を随所で試みている。また、イタリア風な作法が含まれて おり、その頃ロッシーニの作品がよく聞かれていた影響もあるという。同時期に作曲されたイタリア風序曲は最も顕著に影響を反映した作品と言え、特に第2番(D 591)は 交響曲第6番との共通点が多い。
第1楽章 Adagio ‒ Allegro ベートーベン交響曲第1番や第7番に似た様式でアダージョの序奏部が開始され、主部アレグロではフルートが軽快な第1主題を 提示、それをオーケストラ全体で繰り返し、第2主題も木管楽器がリードして音楽は進行してゆく。終結部コーダは第1主題のモチーフをテンポアップし繰り返して終わる。
第2楽章 Andante 古典的な優雅さを湛えた主要主題はヴァイオリン、次にフルート、クラリネットで示される。3連音符でリズミカルに演奏される副主題は、遠くに 聞こえるラッパの音により衛兵の行進をも彷彿させる。両主題が変奏曲風に繰り返された後、主要主題に基づくコーダで曲を閉じる。
第3楽章 Scherzo. Presto ‒ Trio. Più lento シューベルトはこの交響曲で初めてメヌエットではなくスケルツォ(急速な3拍子)を採用した。主部は強拍の 強調、また1拍目以外にアクセントをつけるなどベートーベン的表現が目立つ。中間部(トリオ)ではオーストリア、南ドイツなどの民族舞踊レントラーが流れる。 メロディーのバックに流れる管楽器のドローン(持続音)は、辻音楽師の手回しオルガンを想い起させる。後年作曲の歌曲集『冬の旅』の終曲「辻音楽師」に通じるという のは考えすぎだろうか。
第4楽章 Allegro moderato 展開部を欠いたソナタ形式。まず弦だけで第1主題が軽やかに奏され、やがて主題は高潮し、ファンファーレ風リズムに導かれ 経過部に入る。第2主題は変イ長調、ヴァイオリンの忙しい音階。第3主題はこれぞシューベルトといった歌謡的な旋律。第4主題はベートーヴェンの交響曲第7番のような 付点リズムを伴った音階の遊び・・・。むしろ当時流行していたロッシーニの書く音楽のようでもある。第1主題の再現を導く連結部では、フルートとクラリネットが断続的な音 を15小節にわたって続ける。再現部は型通りに進行し、第4主題部はやや拡大されているが、ここには第8番「大ハ長調」へと発展するモチーフの類似点が見いだされる。 その後、ややテンポを上げて華々しいコーダで全曲を締めくくる。
交響曲 第6番 ロ短調 作品74『 悲愴 』 チャイコフスキー
チャイコフスキーの交響曲第6番は1893年に完成し、同年10月28日に作曲家自身の指揮で初演された。しかし初演のわずか9日後、チャイコフスキーは急病死し、異色 の緩徐楽章での、消えるように終わる『悲愴』という副題のこの作品が彼の最後の大作となった。 初演の2日後に送った手紙で「Simphonie Pathétique」『悲愴』という副題をつけて出版することを指示している。 この曲の各楽章は「嘆息の動機」(繋留音を含めた 2度下降音程を特徴とする音型)と呼ばれる、バロック時代の修辞法による動機から導かれる。副題『悲愴』の性格にふさわしいものであろう。
チャイコフスキーは初演後、従姉妹のアンナ・ペトローヴナに対して「第1楽章は幼年時代と音楽への漠然とした欲求、第2楽章は青春時代と上流社会の楽しい生活、 第3楽章は生活との闘いと名声の獲得、最終楽章は〈De profundis(深淵より)〉。人はこれで全てを終える。でも僕にとってはこれはまだ先のことだ。僕は身のうち に多くのエネルギー、多くの創造力を感じている。(中略)僕にはもっと良いものを創造できるのがわかる」と話したと述懐している。 - Wikipediaより引用
第1楽章 Adagio - Allegro non troppo - Andante - Moderato mosso - Andante - Moderato assai - Allegro vivo - Andante come prima - Andante mosso 序奏部。コントラバスの5度音程に導かれ、低音木管楽器のファゴットが重々しいメロディーを奏でる。これは前述の「嘆息の動機」から導かれる。コントラバスの半音階 的な下降には、苦難の歩みを表すバロック時代の修辞音型「Passus duriusculus」が用いられる。主部アレグロ・ノン・トロッポ。ヴィオラにより序奏から導かれた第1主題 が奏される。やがて各楽器間で主題が交わされ、金管楽器も交え発展しベートーベンの「運命」の「・タタタタ…」を連想させるモチーフも強調されるが、やがて静まり、アン ダンテの美しい第2主題が弱音器を付けたヴァイオリンで奏でられる。3連音符の音階的メロディーも交え、全奏で再び第2主題が演奏され盛り上がったのち、クラリネット により第2主題が最弱奏で繰り返され、ファゴットの最々弱奏(p記号が6つ)に受け渡され消えいるように提示部は終わる。 展開部は、突如全合奏ffのアタック音で始まる。第1主題を中心に展開がされるなか、ロシア正教から引用された金管のコラールを経て、さらに激しい勢いで曲は進んでゆく。一端静まると、弦に第1主題の断片が現れ再現部を導入し、第1主題がトゥッティで厳しく再現される。再現部に入っても展開部の劇的な楽想は維持されたままで、木 管と弦が第1主題の変奏を競り合いながら、そのままクライマックスの頂点に達する。ここで苦悩を強めた絶望的な経過部が押しとどめる様に寄せてきて、第1主題に基 づいた全曲のクライマックスとも言うべき部分となり、ティンパニ・ロールが轟く中、トロンボーンにより強烈な嘆きが示され、やがて静まる。美しい第2主題がロ長調で再現さ れ、全奏で演奏され盛り上がりを見せたのち、クラリネットでこの主題が最弱奏で奏され、管楽器のコラール風旋律で静かに楽章を締めくくる。
第2楽章 Allegro con grazia 冒頭チェロが奏でる憧れを込めた旋律は、流れるように各楽器間で繰り返され受け渡されるが、スラブの音楽によく見られる4分の5拍子という混合拍子によるワルツ* で進んでゆく。中間部では、ティンパニと低弦により5拍子のリズムが拍動のように刻まれるなか「嘆息の動機」の短調旋律が奏でられる。再び冒頭のメロディーが繰り返され、 曲は終わる。 *チャイコフスキーは同時期、ピアノの小品に「5拍子のワルツ」(作品72)を作曲している。(2分弱ほどの作品でテンポは倍近く速いが。)
第3楽章 Allegro molto vivace スケルツォで始まる。3連音符と2連音符が重なリ混沌と喧噪感を表すなかで、行進曲のモチーフが断続的に現れ、3連音符の連続が盛り上がりクライマックスを迎える と、静かにしかし颯爽と行進曲のメロディーがクラリネットのユニゾンで奏でられ、この旋律は楽器を変え何度も繰り返し奏される。途中、ベートーベンの「運命」の「タタタ ターン」を連想させるモチーフに遮られながらも、行進は盛り上がりを見せる。再びせわしなく3連音符のスケルツォが現れ、やがて行進曲のメロディーが再現され、金管楽 器の咆哮の中、全トゥッティで行進曲が高らかに演奏され、高揚感のうちに第3楽章は終わる。
第4楽章 Finale. Adagio lamentoso - Andante - Andante non tanto 4分の3拍子。冒頭の主題は第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが主旋律を1音ごとに交互に弾くという独創的なオーケストレーションが行われ、ためらいがちな性格があ らわされている。この主題および中間部の主題とも「嘆息の動機」によるものである。音楽は次第に高潮し、情熱的なクライマックスを形作り、その後ppでタムタムがなり、 再現部の後は次第に諦観的となり、低弦のリズムは弱りゆく鼓動のように聞こえ、やがて曲は消えるように終わる。
