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第68回定期演奏会 プログラム 曲目紹介 
― フランス音楽の神髄を ―

 ラヴェルやグノーを生んだフランスは、長きにわたりヨーロッパ文化の中心で、音楽においても然りです。尤もフランスお得意のオペラ・歌曲部門はともかく、管弦楽や器楽部門では、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといったドイツ系の作曲家の後塵を拝していたというのが、19世紀の音楽界の状況でした。

 フランスオペラの伝統を継承したシャルル・グノー(1818~1893年)は、後のビゼー、サンサーンス、フォーレらに影響を与えたフランス音楽史の重要人物の一人です。ただ現在でもよく耳にするのは、あの「アヴェ・マリア」と歌劇「ファウスト」(その中でもバレエ音楽)くらいでしょうか。

 モーリス・ラヴェル(1875~1937年)は、グノーの影響を受けたフォーレを師として、19世紀の主流であったロマン主義から20世紀に入って印象主義音楽という新しい流れを作りました。バレエ音楽「ダフニスとクロエ」やあの「ボレロ」を始めとする、おなじみの名曲がずらりと並びます。やや先輩のドビュッシーとともに、フランス音楽史に輝ける足跡を残しました。

ラヴェル : 組曲「マ・メール・ロワ」

 1910年、ラヴェル35歳の作品です。元々は5つの小曲からなるピアノ連弾曲ですが、ラヴェル自身が翌年管弦楽用に編曲しました。マ・メール・ロワなるフランス語は英語のマザーグース(Mother Goose)であり、18世紀のフランス詩人ペローの編纂した童話集などが元ネタです。

1曲目「眠れる森の美女」はご存じのとおり、魔女の呪いにより100年の眠りについた王女の物語で、後にチャイコフスキーのバレエやディズニーの映画にもなりました。

2曲目「親指小僧」では、子らが森の中でさまよう様子が描かれます。

3曲目では、中国製の首振り人形が歌って踊る様子が描かれます。

4曲目「美女と野獣」もまた映画等でおなじみ。魔女の呪いが解けて野獣が王子に変わるまでの様子です。

5曲目(終曲)は再び「眠れる森の美女」から。静かに夜が明け、目を覚ました王女が王子と結ばれ、登場人物全員が祝福し「めでたしめでたし」の幕が下ります。

グノー : 歌劇「ファウスト」第5幕からバレエ音楽

 1859年に発表されたグノーの歌劇「ファウスト」は、19世紀フランスオペラ最大のヒット作の一つです。これをいよいよオペラ座にて1869年に公演する際に改訂がなされ、バレエが追加されたというものです。

 「ファウスト」は言うまでもなくドイツの文豪ゲーテの傑作であり、歌劇ファウストはこの長編戯曲を素材とするもの。この第5幕の舞台がワルプルギスの夜(=ドイツの伝承で、4月30日の晩から魔女らが祝宴を上げて春を迎えるというもの)で、これを7曲のバレエ組曲に仕上げました。その台本は概ね以下のようなものです。

 主人公ファウストが悪魔のメフィストフェレスに連れられて宮殿に入ると、美女らが取り囲み、誘惑合戦が始まる。

(1)前奏曲としてのワルツ。

(2)エレーヌ(ヘレネ―)+トロイ娘たち、クレオパトラ+ヌビア娘たちが二手に分かれて誘惑合戦を始める。

(3)先攻はクレオパトラ組。まずはヌビア娘たちの登場。

(4)ヌビア娘に続いてクレオパトラが登場。

(ヴァリアシオンはバレエ用語で、ソロの踊りのこと。)

(5)後攻はエレーヌ組。まずはトロイ娘たちが登場。

(6)トロイ娘たちに続いてエレーヌが登場。

(7)フリュネ(古代ギリシャの娼婦)が割り込んできて踊り、最後は酒も入る饗宴(バッカナール)で乱痴気騒ぎとなる。

 なおクレオパトラは古代エジプト(ヌビア)最後の女王で絶世の美女、エレーヌもまた古代ギリシャのトロイの絶世の美女です。脈絡のない寄せ集めのようですが、何とも豪華なバレエ、というわけです。なお5曲目の「トロイ娘たちの入場」は、その昔NHK-FM放送で、クラシック音楽番組のテーマ曲として長く使われたので、60歳代以上の音楽ファンにとっては、懐かしい曲なのでは。

ムソルグスキー/ラヴェル:組曲「展覧会の絵」

 原作者ムソルグスキー(1839~1881年)は、音楽史上いわゆる「ロシア五人組」の一人で、音楽的にも独特な作風が後にフランス音楽にも影響を与えたとされます。「展覧会の絵」は、友人であったハルトマンの遺作展(絵画やスケッチ、デッサン等)で見たとされる10枚の絵を素材にし、さらに絵から絵と移動していく様をプロムナード(ほとんど日本語になっていますが、そもそもはフランス語で散歩(道)の意)という前奏曲もしくは間奏曲で繋ぐというなかなかユニークな構成の

ピアノ組曲です。後にラヴェルが管弦楽用に編曲し、1922年にオペラ座で初演されて一気に注目を集めました。ムソルグスキーによるロシア風味の独特のリズムと和声が、ラヴェルの鮮やかなオーケストレーションにより、見事な管弦楽作品に生まれ変わったと言えます。プロムナードを含めて全15曲の解説は別に譲り、ここでは舞台に注目してもらうために、ラヴェルの独創的な楽器の使用についてご説明しましょう。

(1)グノーム 後半に「むち」が1発唸ります。またクライマックスにかけて

「がらがら」(ラチェット)が2小節はいります。文字どおり「ガラガラ」と鳴ります

(2)古城 クラシック音楽では珍しい「アルトサクソフォーン」のソロが目玉です。

(4)ビドロ チューバのソロあり。低音楽器としてはかなりの高音域を担当するので、今回は「テナー・チューバ」を使います。

(6)サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ ミュート付きのトランペットの指定ですが、今回はちょっと珍しいピッコロトランペットを使います。

(8)カタコンブ 最後に「銅鑼」(タムタム、どら)が小さく1発。注意しないと聴き落とします。

(9)バーバヤーガの小屋 鳴り物が活躍します。ここでも最後の2小節だけ「がらがら」がガラガラ鳴ります。(但しシンバルやタンバリンと被っており、聴こえにくいです。)

(10)キエフの大きな門 ここでも打楽器群の効果がいかんなく発揮されます。クライマックスに入るところからの「鐘」(チューブラー・ベル)と銅鑼(どら)にご注目。

 この展覧会の絵こそ、冒頭のプロムナードからキエフの大きな門に至るまで、弦楽器から打楽器に至るまで、さまざまな音色や響きがふんだんに展開され、「管弦楽の魔術師」との異名をとるラヴェルの面目躍如たる代表作だと言えます。(繰り返しますが、原作はムソルグスキー。)

 今回の3曲は、いずれもオリジナルの作品がそれぞれの経緯により姿を変え、フランスらしいセンスの溢れた管弦楽組曲となったもの。マ・メール・ロワは眠れる森の美女の物語を直接音で表現、ファウストはワルプルギスの饗宴をバレエに形を変えて再現、展覧会の絵はムソルグスキーが絵から得たイメージをさらに再解釈。19世紀後半から20世紀にかけてのフランス音楽の神髄を、ごく一部ですが、存分にお楽しみください。

第68回定期演奏会 曲目紹介 補足
 1.歌劇「ファウスト」について 

 解説で触れたように、フランス、分けてもパリは文化の中心であり、19世紀にはいると器楽や管弦楽ではドイツに後れを取ったものの、歌曲やオペラの世界では引き続き最高の権威を保っていた。尤もこれを担ったのは、17世紀のリュリ(イタリアから帰化)、18世紀のグルック(ドイツ人)、19世紀のマイヤベーア(ドイツ人)、ロッシーニ(イタリア人)と外国人が多かった。グノーはパリ育ち、パリ音楽院で教育を受け、パリで活躍した生粋のパリっ子であり、フランス音楽史の輝かしい1頁を飾る音楽家である。

 

 そのグノーにしても、今に至るまで残るオペラは、この「ファウスト」くらいである。現在最も人気あるオペラとしては、モーツァルト、ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニ辺りの作品が占めるだろう。フランス語だとビゼーの「カルメン」がかろうじて入るか。グノーの最高傑作であるファウストだが、上演に4時間を要する超大作で費用も嵩むので、なかなかわが国ではお目にかかれない。近年では英国ロイヤルオペラの引っ越し公演が2019年、また藤原歌劇団が昨年公演している。(29年振りとのこと) 

 一つトリビアを。わが国では(あまり知られていないが)毎年11月24日を「オペラ記念日」としている。これは1894年(明治27年)のその日に、オペラが初めて上演されたことによる。この時のお題目がグノーのファウスト第1幕、パリでの初演から35年後のことであった。 

 2.ラヴェルの作風について 

  ラヴェルが登場した時代背景に触れておくと、フランスは1870年普仏戦争で屈辱的な敗北を喫し(その結果ドイツ帝国が成立)、世界に冠たるフランスの誇りは無残に打ち砕かれ、そこから新たなナショナリズムが起こった。(その昔、小学校の国語教科書に出てきたドーデ「最後の授業」“Viva France”を覚えておられますか?)時のフランス音楽界の実力者サンサーンスらが「国民音楽協会」を設立し、特に器楽作品の充実が図られていった。その中から、ドビュッシーやラヴェルらによる「印象主義音楽」という新たな潮流が生まれたのである。 

 ラヴェルは生涯パリで暮らしたが、音楽上はフランス国外の影響を受けている。

 

(1)スペインの影響 ラヴェルの母はスペインに繋がるバスク地方の出身で、バスク語が母語。それもあって、後年ラヴェルの名作には「スペイン狂詩曲」「ボレロ」等スペイン色豊かな曲がある。 

(2)ロシアの影響 これは1894年の露仏同盟締結も影響しており、トルストイらの文学、ロシア五人組らの音楽がフランスに入ってきた。中でもムソルグスキーの独特な音楽書法は、ロシア国内での評価は芳しくなかった一方で、ドビュッシーやラヴェルの心を捉えた。後に、ラヴェルに対し展覧会の絵の編曲依頼があった際は、待ってましたとばかり受けたのではないか。 

(3)その他の影響 当時のフランス芸術の潮流でもあった異国趣味(ジャポニスムを始めとする)が、たびたび開催されたパリ万国博等を通じて伝わってきた。ラヴェルは1878年のパリ万博で、インドネシアのガムラン音楽に強く惹かれ、後にマメールロワの3曲目に反映されている。(本人が後にそう語っている。) 

3.曲目解説の補足 

(1)マ・メール・ロワ 

 これは英語の「マザー・グース」の説明から入る方が良いだろう。ご承知のとおりイギリスに古くから伝わる童謡のことだが、英語の「ガチョウ母さん」の原語がフランス語のma mere(私のお母さん)l’oye(ガチョウ、古いフランス語の表記)である。詩人にして童話作家のシャルル・ペローが、1697年に出版した童話集の口絵に“ma mere I’oye”なる表示があったことから、1729年に英訳された後は英語表記の“mother goose”が広まり、今や「ロンドン橋落ちた」や「メリーさんの羊」といった童謡の総称として定着している。 

 ラヴェル作曲による組曲のうち、第1、2曲はこのペローの童話集から摂られているが、3曲目「パゴダの女王レドロネット」と4曲目「美女と野獣の対話」は別である。5曲目は特定されていない。(ラヴェルのオリジナルといえるかも知れない。) 

 なお組曲が管弦楽に編曲されてから、さらに翌年の1912年に、依頼を受けてバレエ音楽に改編している。前奏曲ともう1曲を追加し曲順も入れ替えた。コンサートでは、組曲版とバレエ版(全曲版)のどちらもが演奏されるようで、CDを購入したりWEB等で聴く場合は、どちらなのか確認をしておくのが良いだろう。 

(2)ファウストからバレエ音楽 

 フランス音楽の主流は、一貫して器楽ではなくオペラを中心とした歌曲であり、パリのオペラ座はその頂点にあった。ここで公演される大規模な管弦楽と合唱を含めた豪華絢爛たる大型の歌劇は、特に「グランド・オペラ」と称された。グノーの歌劇「ファウスト」も、当初は同じパリのリリック座で公演されていたが、オペラ座で公演するに際し、グランドオペラの定番であるバレエを挿入した。このバレエ音楽が、後世のオーケストラコンサートにおける重要なレパートリーとして残ったのである。 

 なおワルプルギスを題材にした音楽といえば、なんといっても同じフランス人のベルリオーズによる「幻想交響曲」がある。ファウストのバレエ音楽最終曲と、幻想の5楽章クライマックスでは、それぞれにお祭り騒ぎの狂気が見事に表現されている。序ながら、そのベルリオーズはファウストを読んで魅了され、その勢いで「ファウストの劫罰」という大曲を作曲、代表作の一つとなっている。 

(3)展覧会の絵 

 ムソルグスキーの手になるこの曲は生前には発表されず、陽の目を見るのは、パリで活躍していたロシア人指揮者セルゲイ・クーセヴィツキ―がラヴェルに編曲を依頼し、1922年にオペラ座で初演されてからである。実はラヴェル以前にも、またラヴェル以降現在に至るまでも、この「展覧会の絵」は多くの作曲家が編曲を試みた。有名なのは指揮者ストコフスキーによるものだが、クラシック以外でも、英国ロックバンドのELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)や、世界的にヒットした冨田勲のシンセサイザー音楽(1975年)など、枚挙にいとまがない。ただラヴェル編曲の大ヒット以降は、「展覧会の絵」とはもはやラヴェルの作品、くらいの強い印象が定着していると言ってよい。

 

 なお先日来日した英国バーミンガム市交響楽団(指揮はこれまた先日ベルリンフィルの定期公演にデビューした山田和雄)は、英国人指揮者ヘンリー・ウッド(BBCプロムスの創設者)が1915年(つまりラヴェル以前)に編曲した展覧会の絵を演奏した。

 

 解説本文では織り込めなかった全15曲の内容について、特に元となる絵との関係を含めて、以下補足する。 

<プロムナード> 

拍子を数えながら聴くと、変則的でわけが分からなくなる不思議なメロディ。(基本は5拍子+6拍子=11拍が一塊だが、これも途中からどこで区切ってよいかわからなくなる。)会場の絵から絵へ移っていくそぞろ歩きの雰囲気を表しているのかも。少しずつ形を変えながら、5カ所出てくる。(なお「キエフの大きな門」でもその断片が聴ける。) 

<1.グノーム> 

ラテン語で、直訳は「小人」。大地を司る精霊のこと。元となる絵は1991年にNHK取材班が突き止めたとしているが、断定はできない。(*) 

各楽器からおぞましい音が繰り出されるが、「むち」と「がらがら」に注目。 

<2.古城> 

どこのお城だろうか。元の絵の候補がいくつかあるが、特定はできていない。 

クラシック音楽では珍しい「アルトサクソフォーン」のソロが目玉。サクソフォーンは、19世紀半ばにパリ在住のベルギー人アドルフ・サックスが発明した新しい楽器。管弦楽に採り入れたのは、ビゼーが最初と思われる(1872年の「アルルの女」)が、ラヴェルは後に「ボレロ」でもサックスのソロを入れている。 

<3.テュイルリーの庭> 

パリのテュイルリー公園で子供が戯れる(けんかする)様子を表すとされるが、元の絵は特定されていない。 

<4.ビドロ> 

ポーランド語で「牛車」だが、実は「虐げられた民衆」を指す等、諸説が入り乱れる。

但し元の絵が特定されず、なんとも言えない。実に重苦しい曲なので、聴く側の想像もたくましくなるか。 

<5.卵の殻をつけた雛鳥のバレエ> 

ハルトマンがバレエ音楽のために描いた衣装デザインのスケッチが元の絵。 

<6.サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ> 

金持ちと貧乏の二人のユダヤ人を表す2枚の絵は特定されている。ただ何を表現しているかは謎である。 

<7.リモージュ-市場> 

リモージュは、リモージュ焼きで有名なフランス中部の町。市場に集まる人々のおしゃべりの様子が描かれたとされるが、元の絵が特定できたとは言えず。 

<8.カタコンブ><死せる言葉による死者への話しかけ> 

カタコンブとは古代ローマの墓。主役のトロンボーンは、音楽で死や葬送を表す際にしばしば登場する。「死せる言葉---」は実質5番目のプロムナード。 

<9.バーバヤーガの小屋> 

バーバヤーガとは、ロシアの妖怪で魔女。元の絵は、バーバヤーガが住む小屋を模した時計のデッサンなので、ちょっとイメージがずれる。ただ音楽のおどろおどろしさは、まさしくバーバヤーガ。舞台後方の打楽器群が存分に表現してくれる。 

<10.キエフの大きな門> 

ハルトマンは、1869年にキエフ市が凱旋門再建のため募集したデザインコンペに応募しており、この時のデッサンが残されている。実際にはこのプロジェクトは実現せず、再建されたのは1982年。ムソルグスキーとしては、いつの日か凱旋門が再建され、ハルトマンの夢が実現されることを想像したのかも知れない。 

(*)NHKが作曲家團伊玖磨の発案で、「展覧会の絵」で特定されていなかったとされる絵をロシア(当時はソ連)で調査するプロジェクトを実施し、1991年12月1日にNHKスペシャルで放送、後に團伊玖磨の見解とともに1992年書籍化された。現在、「展覧会の絵」の絵に関しては、この調査が最も信頼に足り、世に出回る画像等の情報も、この書籍に依拠しているケースが多いと思われる。 

4.展覧会の絵に関する若干の考察 

 「展覧会の絵」と「プロムナード」という表題を見れば、例えばルーブル美術館の展示室に掲げられた名画を、部屋から部屋へ移動しながら鑑賞し、その印象を音に表すイメージではないだろうか。ところが調べていくほど、どうもそういう話でもなさそうである。以下そのことに触れる。 

 まず「絵」の作者ハルトマン(ロシア語の発音ではガルトマン、1834~1873年)は、ペテルブルグの美術アカデミーでは建築を専攻し、建築家として身を立てている。パリに長期滞在したこともあり、西欧のあちこちを旅行しながら絵も描いている。遺作展にはこういった絵も展示され、ムソルグスキーも見たと思われる。またこれらの絵は、いずれも小さなサイズであることが知れている。(例えば雛鳥の絵は18㎝×25㎝、バーバヤーガの絵は24㎝×32㎝)いずれも、立派な美術作品というよりはスケッチというものばかりである。 

 ムソルグスキーは、盟友ハルトマンの早過ぎる死を悼み、突き動かされるように一気にこの作品を仕上げたという。ただプロムナードに始まり、全曲を通して聴いても、ハルトマンを失った悲しみとか、ハルトマンを懐かしむ追憶の気配は感じられない。ピアノ原曲でなくラヴェル編曲版で聴くと、そのことが余計に前面に出る。特にプロムナードのソロトランペットの使用などはほとんどファンファーレのノリであり、ラヴェルとしては敢えて作曲の経緯とは別に、純粋にムソルグスキーの音の組み合わせをオーケストラで派手に彩ったように思える。 

 だとすると、そもそもムソルグスキーは素晴らしい絵を見て感動し、これを音で描写したのだろうかという疑問が湧く。とするとムソルグスキーは、かけがえのない友人を偲び、その思いを音楽に表現するにあたり、故人の残した作品から出発して、思いを巡らせたのか。それは本人のみぞ知るということかも知れない。 

 音楽作品というのは、結局のところ聴く側がどう感じ取るかがすべてであって、作曲家や演奏家の思いとは全く別の結果となることもある。上記のとおり、展覧会の絵にまつわる背景を調べて紹介したものの、そんなちまちました事前知識と関係なく、オルセー美術館に展示されたハルトマンの大壁画を次々鑑賞していくイメージでも構わないとも思うのだが、如何だろうか。 

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